過去は無条件に切ない

大人の恋愛小説です。

過去は無条件に切ない

 「過去って無条件に切ないよね。」彼女は言った。恵比寿を少し外れ、入口が分からないような居酒屋だった。僕たちは久々に再会し、近況報告をした。僕が奥さんの愚痴を言うと、「私、あなたの子供なら愛せる気がする。」と言ってくれた。お会計が済むと、30分程散歩をし、別れ際にキスをして、またお互いの人生へと分かれた。

 

 彼女と僕は、中学生の時から大学数年生かまで約6年間付き合っていて、「30歳になって、お互い結婚してなければ結婚しようね。」そう約束しあっていた。そして僕が30歳で彼女が29歳の時、僕は別の女性と結婚した。授かり婚だった。気が合うのは元カノだった。体が合うのが今の奥さんだった。結婚すると、愛する娘と優しい奥さんと、平穏な幸せを噛み締められた。だけど時々、他の選択を取っていた人生を妄想してしまう。彼女と結婚していたら・・・。はたまた初恋の女の子にアタックしていたら・・・。結婚せず、本当の恋愛を待っていたら・・・。過去を振り返り、そんなことを考えると、過去は無条件に切ないという言葉がじんわりと心に滲む。

 

 ある日見た夢が、人生で唯一ラブレターをくれた女の子と大人になって再会する夢だった。ラブレターをくれた小学生のころ、僕は派手で人気者な女の子が好きだった。ラブレターをくれた子は人気者ではなく、友達も少なかった。でも今思えば可愛かったし、大人になってからのタイプに近かったような気がする。そんな、少し都合の良い妄想によって脚色された女の子が、夢の中で成人し、ピアスをつけ僕の隣に座っていた。何故かその子の住んでいるところは知っていて、仕事を聞いてみようとして、目が覚めた。土曜日でまだ寝ていたかったが、その日それからはなかなか寝付けなかった。でもあくびは出た。あくびによって出た涙が、夢の世界から現実に戻されたことを悲劇に錯覚させた。また過去を切なく感じてしまう。小学校やその子の名前をSNSで検索したが、出てこなかった。

 

 次女が5歳になったころ、僕は上場の鐘を鳴らした。そして、資産家になった。